東大生とヴァイオリンのおけいこ 

コミカルではありますが、身につまされるような「証言」が続きましたから、今回は趣きを変えて、明るく希望がわく(?) 証言をとりあげます。

「証言」といっても、最近発刊された雑誌の紹介なんですが。

基本的にはおじさん系のビジネス雑誌である「プレジデント」。その12月17日号別冊が、1冊丸ごとの教育特集です。

「プレジデント Family vol.1」

サブタイトルが「頭のいい子の親の顔 徹底調査!東大生100人の小中学校時代」です。

この雑誌によると、東大生100人へのアンケート結果から浮かんだ、小中学校時代の典型的な東大生像は・・・

・好きな教科は「算数」。

・塾に楽しく通っている。

ヴァイオリンを習っている。

・テレビゲームは1日1時間だけ。

・パパの年収1000万円。

・夕食は家族で一緒・・・

おお、やはり出ましたね、ヴァイオリンのおけいこ。

100人のうち、小学校の時にピアノを習っていた人が40人でダントツ。ついで、水泳39人、習字35人、英会話14人、ヴァイオリンが13人です。(複数回答可)

まあ、ほかの習い事に比べて、ヴァイオリンはこんなものかと思いますが、注目すべきは、その継続率です。

つまり、同じ100人の中学生の時の習い事を見てみると。ピアノが14人、ヴァイオリンがここで2位に踊り出て11人、次いで、習字7人、英会話5人と続きます。

ほかの習い事は中学生になるとどんどんやめていってしまうのに、ヴァイオリンについては続ける人が多い。その継続率の高さは注目すべきものです。

小学校から中学校へと勉強と両立させながら、ハイレベルのヴァイオリンのおけいこを続ける、将来の東大生たち。東大や京大、早慶などの難関大学のオーケストラが、伝統的に半プロ級の腕前との定評があるのもこれでうなずけます。

この雑誌、この他にも魅力的な特集が一杯です。私は特に、東大生のご家庭15組を写真入りで紹介した特集に、少し目頭が熱くなりました。

とても幸せそうなご両親とお子様の写真。お子様は皆、ガリガリ勉強するというタイプではなく、性格のよさと純真さと懸命に努力する素直さとを持っていらっしゃるようです。

そういうお子様をご両親が暖かく見守っており、また、お子様も常にご両親が仕事や家事に一生懸命に頑張っていらっしゃる姿を小さいときから見ている。

そんな家庭には必ず一家団欒の時間が多くあります。

いい所だけ切り取った取材という見方もあるのかもしれませんが、私はそういう家庭のあり方が自然と伝わってくるこの特集にとても感動しました。

この他にも、全国の私立中高一貫校のデータや学校紹介がツボを得たコンパクト内容でまとめられています。

中でも、おけいこニストのご家庭にとっては、非常に興味がある学力試験なしで難関校に入れる「一芸入試」の紹介は要チェックです。

早稲田実業はスポーツ・文化合わせての推薦枠が男女50人。慶応義塾高校は男子40人。特に後者は、「ノンジャンルで入学後の制約なし」ということで、ヴァイオリンのコンクール歴なども評価の対象のようです。

また、最近注目の公立中高一貫校の白鴎高校附属中学でも「一芸入試」である「特別推薦枠」が設けられています。芸術分野は、邦楽と邦舞(三味線・箏・囃子・日本舞踊・歌舞伎・能・狂言)だけで、ヴァイオリンやピアノはありませんが、注目すべきは、「特別推薦枠で入学してきた生徒は練習、リハーサル、本番などで遅刻、早退、欠席の場合、公休扱いとなる。」という学校の方針です。

ヴァイオリンに熱心なご家庭は、おそらく教育全般に熱心だと思います。

ご家族皆様でこの雑誌をお読みになることをお勧めします。(お父様にも、ぜひ! もともとおやじ系雑誌の別冊ですから、ひょっとしてお父様が買ってこられたおうちもあるかもしれませんね。)

チャイコン・ファイナリスト養成ギプス 

○フィンガーウェイトさんの証言

私は、ピアノを弾く指を強化するための、「フィンガーウェイト」です。

はじめまして。

一本一本の指に私をはめて、ピアノを弾いて、筋力を強化していただくための道具です。正しく使用していただければ、お子様の指の強化に役立ちます。

ところが、その私が、ヴァイオリンのおけいこで、弦を押さえる左手の指の強化に使えそうだ、などとトンでもないことを思いついた方がいらっしゃいます。

そして、将来、チャイコフスキーコンクールを受けさせるのだということで、「チャイコン・ファイナリスト養成ギプス」などと称して、お子様の左手の指に私をつけさせて、まさしく星一徹よろしく、ヴァイオリンの練習をさせている鬼のような方がいらっしゃいます。

私は、ピアノ用です。私をつけて、ヴァイオリンなど弾けるはずがありません。指をこわしてしまいます。

一体、そうまでして、練習させて、お子様を「ヴァイオリンだけが取りえのロボット」にしてしまっていいのでしょうか?

「巨人の星」の星飛雄馬や、オズマのように、してしまっていいのでしょうか?

共鳴する証言(2) 

○ バッハさん


バッハ 無伴奏 ソナタとパルティータ



○今日も怒られっぱなしのお子さん(1)


罰は 無飯奏 そーなったら腹減った



○今日も怒られっぱなしのお子さん(2)


母は 無愛想 あなたの張る手、痛!

苦悶のススメ 

○福沢諭吉さんの証言

天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。

しかしながら、ヴァイオリンの世界はそうではない。

生まれながらにして、上下の差別もある世界。持てるものと持たざるものの違いが、環境の違いを生み、人の上に人を造ってしまうこともある。

もともと、貴賎の差別を嫌った私だが、現代において、このように貴賎の識別のしるしとなる紙切れに、承諾なしに肖像を載せられるということは、本来あってはならない話ではないか。

まあ、それは置くとして。

このヴァイオリンの世界では、肖像画の私は、羽が生えたように、毎月毎月、確実に飛んでいく。

レッスン料に、レッスンへ行く交通費に。コンクールともなれば伴奏合わせに、本番の伴奏に、コンクール後には謝礼に。夏休みともなれば合宿やセミナーの講習料と宿泊費と交通費に。お中元とお歳暮に。受験ともなれば頻度が増えるレッスン料に、合格後はその御礼に・・・。

私は、あらゆる機会に、まさにマシンガンに装填された弾丸よろしく、飛んで、飛んで、飛びまくる。

1年経ってみれば、公立小学校に通わせていたのに、私立小学校に通わせているのと同じ、いやそれ以上の数で、家計から、私がいなくなる。

まさに、家計にとっては、苦悶のススメである。

しかしながら、これは序の口。

分数楽器から、フルサイズにヴァイオリンを買い換える時。

それは、この私が束になって一気に消えてしまう、運命の時だ。

子供の練習に向き合って、髪振り乱して、闘っている鬼親が、経済的な面でも、まさに兵糧攻めにあう厳しさで、追い込まれていく。

父親にお小遣いなどあろうはずがない。酒も煙草もやめた給え。

母親が洋服を買うなどもってのほか。

着た切りのスズメである。

そういう厳しい道を、家族が並んで歩んでいくのだ。

共鳴する証言(1) 

短い証言を、並立させました。
共鳴をお楽しみ下さい。

○ チューナーさん

周波数440Hz。いつも、ばっちりです。

○ お父さん

血圧150mmHg。いつも、とばっちりです。

鏡よ、世界で一番ヴァイオリンが上手いのは誰? 

○姿見さんの証言

よく、泣き顔で、私の前に立って、姿勢や弓の動きをチェックしてるわ。

だいたい、激しく叱られ、いたぶられた後に、

「幼稚園児じゃあるまいし」

「ヴァイオリン習い始めて1週間目に教えてもらったことが、5年経っても、まだできていない。」

「人間やめますか。」

なんていう止めの一言があって、本人が大泣きに泣く。涙が乾いたあとで、フォームのチェックをしろとのお達しを受けて、私の前にやってくるっていうのがパターンね。

そりゃあ、もう、赤く泣きはらした顔で、鼻汁まで飛び出しちゃって。ヴァイオリンには、よだれと涙の後がベットリくっついて。悲惨な状態。

ほんと、見てられないわ。

だから、魔法の鏡にでもなって、「この世で一番ヴァイオリンがうまいのはあなた」 なんて言ってあげたいくらい。

ロシアより哀をこめて 

○カール3世さんの証言(2)

僕の祖父の代より以前には、「小野アンナ音階教本」さんが、この家にいらっしゃいました。

僕たちは、ぶ厚く、表紙などの作りがしっかりしているので、まだいいのですが、「小野アンナ音階教本」さんは、もっと薄くて、丈夫じゃない作りでした。

だから、この家では、僕たち以上に過酷な運命が待ち受けていたと聞いています。

小野アンナさんと言えば、あのジョン・レノン夫人ヨーコ・オノの伯母にあたられます。

ロシア革命直前に日本人留学生小野俊一氏と結婚。1918年革命下のロシアを離れ、日本へ。

日本のヴァイオリン教育界に偉大な功績を残した後、1958年フルシチョフ体制下のソ連・グルジアへ渡りました。

歴史の荒波に翻弄されつつ、激動の時代を生き抜いた小野アンナさん自らが編んだ音階教本。

その音階教本が、また、厳しくも哀しい運命にさらされる、というのは一体どういう因果でしょうか。

昔のことなので、この家でどのようなことがあったのかは詳しくは知りませんが、「小野アンナ音階教本」さんも、次々と新しいものに買い替えざるをえない状況が続き、やはり3代に及んだそうです。

楽譜は、編者や作曲家の生命の息吹き。文化遺産と言っても過言ではありません。

どのような事情があれ、大切に扱っていただきたいと思います。

私はピアノ、あなたはフォルテ(な鬼親) 

○ピアノさんの証言

コンクールがだんだん近づいてきて、曲も仕上がってくると、親が子供のヴァイオリンにピアノ伴奏をつけてあげる時間も多くなります。

そのころに、私の憂鬱は頂点に達してしまいます。

そう、あれが、♪「突然の嵐みたいに」♪襲ってくるからなのです。

私も、「カールフレッシュ・スケール・システム」さんと同じ運命にあります。つまり、怒りのはけ口になってしまうということです。

「カールフレッシュ・スケール・システム」さんと異なるのは、彼が楽譜であり、私が鍵盤楽器であるという点です。

つまり、私は、そもそも「叩かれる」運命にあるんです。

そういう定めだから、もちろん、叩かれるのは覚悟の上ではありますが。

「あーーっ。全然ダメ!」

と絶叫して、突然、手のひらもろとも、私を強くぶつといったことは、お願いですからお辞め下さい。

弾いていて突然、「できてなーい」と激しく吠えて、イスを思わず蹴飛ばして、イテテ、イテテ、と自業自得状態になったのは、ハッハッハッ、ざまあみろ、なんですが。

痛みが去るやいなや、怒りの矛先をこの私にだけ向けて、

鍵盤に、「たあっ」というかけ声と共に、

エルボウドロップを落とすというのは、

一体全体、どういうことなんでしょうか。

このような不条理には、もはやがまんできません。