「コーチのお城」−「みゃあコン」(2) 

その場合、2千円もの入場料払っとる観客も黙っとりゃあせん。

だいたい、予選会場のホールには、もともとごが沸いとるでよ。あのホールの座席、座り心地が最悪! 寒ぼろ出るわ。

いつか、「2千円でこれか!」言うて、どえらけねゃあ(=「どえりゃあ」の最上級)勢いで座席蹴ったくっとるおやじもおったがね。

まあ、「みゃあコン」名古屋大会は、言ってみれば東海3県のみの専用・御用達。悪く言えば、鎖国状態。名古屋大会1位が全国大会出て行っても、内弁慶で苦戦しがちという負の面はある。なんてこと言うと、名古屋のコンテスタントにど叱られるがね。

高校の部なんか、菊里高校と明和高校の音楽科の学内コンクールかと間違ってまうでかんわ。あっ、余計なこと言ってまった。堪忍したってちょ。

今年の「みゃあコン」60回記念大会では、いろいろ変わるところがあるみたいやが、名古屋大会のええ所がのーなるのは悲しいでかんわ。ええ所は当然、残したってちょ。


*さて、名古屋弁と言えば、作家清水義範氏。『やっとかめ探偵団』シリーズなど、一連の「名古屋語」(氏によると、名古屋弁ではなく、名古屋語なのである。)の抱腹絶倒ワールドには定評があります。

以下の辞典は、この「コーチのお城」執筆でも大いに参考にさせていただきました。この辞典中にある、喫茶店で名古屋のおばさま連により展開される、「ええて、いかんて論争」。どえりゃあ笑えるでかんわ。その他にも、名古屋語の会話実例が極めて豊富な辞典です。



「コーチのお城」−「みゃあコン」(1) 

(*そろそろ読者の皆様も慣れてみえた名古屋弁。今回は訳・語注なしでお届けします。)

ヴァイオリンのコンクールについても、名古屋は独特の文化を有している。

「みゃあコン」(毎コン)の名古屋大会には、愛知・岐阜・三重の「東海3県」に在住の小4から高3までが出場できる。もっと正確に言うと、三重県でも、名張・伊賀・熊野などの人は申し訳ないけど、大阪大会へ行ってちょ。それから、静岡県がどんなに主張しても、名古屋人は静岡含めて「東海4県」なんていう感覚は一切ない。ほんだで静岡県の人は東京大会へ行ってちょ。

尾張名古屋は城でもつ、中京文化は「東海3県」でもつ。

それから、「みゃあコン」は全国一律2万円の参加料を取る。これは、「たいがいにしとかなかんわ」というレベルの金額。当然、付加価値がなければ、名古屋では許されん。

名古屋大会では、予選でもちゃんと出場者の名前と在学校名が書いたるパンフレットが作られる。これ、当たり前。さすがに写真までは載っとらんがね。

東京大会みたいに、A4のコピー用紙1枚に参加者の名前だけ書いたのを配っておしまい、というのは名古屋では考えられん。そんなけちくしゃあことしたら、名古屋では、どえりゃあ騒ぎになるぎゃあ。そりゃあ、参加者が一揆起こすがね。

「コーチのお城」−「コーヒー飲みに行こまい」 

名古屋は倹約・実質本位の、独自文化が発達した土地柄。

喫茶店のコーヒー一杯にも、必ず付加価値が求められる。

名古屋人が「コーヒーでも飲みに行こまい」と言った時、それがコーヒーだけを飲みに行くことを指していると思ったら大間違いだ。

名古屋の喫茶店にあるメニューに書かれた「コーヒー」は、通常、ゆで玉子や柿ピー、マドレーヌやクッキーが付いてくることが前提である。そのすべてが付いてくることも決して稀なことではない。

もちろん「モーニングセット」はこれとはまた全くの別物で、もっと大きな付加価値が付いてくることを厳しく求められる。コーヒーに小倉&バタートースト、ゆで玉子、ミニサラダが付いてくる程度では、名古屋人は誰も驚かない。

「東京の喫茶店で『コーヒーいっぴゃあ』言うたら、コーヒーしか出てこなんだ。どえりゃあたまげたでかんわ。東京はけちくしゃあがね。」

たまに名古屋ネイティヴとは違うマスターがやっとる喫茶店のメニューに「コーヒー(お菓子付き)」等と書いたる場合があるが、それは、「カツ丼(カツ付き)」と言うとんのとおんなじだが、と秘かに感じているネイティヴ名古屋やんは多い。

「コーチのお城」−30,000円超 

東京から最近引っ越して来た、名古屋弁が皆目わからない門下生のレッスンで。

「はい、これ。チケット10枚。わしがソロ執るから、家族やお友達と見に来たってちょ。

おみゃあさんとご両親がござる(=「いらっしゃる」)んなら、その分5,000円負けとくがね。

ほんだで、チケット代は・・・。30,000円と。


30,000円ちょう。


「えっ?」


「30,000円ちょう。」


「せ、せ、先生。すみません。このような場合、標準的には大体おいくら位お支払いすればよろしいのでしょうか?」

「ほんだで、


『30,000円ちょう。』


って言ったがね。」


「で、ですから、その。『超』と言われても、相場がわからないものですから。いくら位なんでしょうか?」

「ん?」

*注)「ちょう」=「頂戴」「下さい」。 (用例)タバコ屋さんの店先で。「ヒャアラアト、ちょう!」(ハイライト、下さい!)

「コーチのお城」−コメヒョウは買ってくれる? 

多忙なコーチではあるが、頼まれたら嫌とは言えない。

しぶしぶ、地元アマオケのソロを「おつとめ品」レベルのギャラで受けることになってまった。今のコーチの地位からすると、メリットは全くなし。すでに頼まれる前から、出来上がっていたチラシに、コーチの名前がソロ奏者として書いたる。

そして主催者側は平気でコーチにまでチケット販売を依頼してくる。

「こんなにチケット押しつけてきて。こっすい(=「ずるい」)奴らだがね。

『コーチ先生の出演だと、超満員確実。お弟子さんにいい席を早めにご販売下さい。』やと? 

このたわけが。きんのう持っていりゃあせ。(=「昨日もっていらっしゃい」)

弟子にさばけんかったら、どうしてくれる? 

何? 『いらんものは、コメヒョウに売ろう!』ってか。

コメヒョウはこうてくれんがね。」 

「コーチのお城」−おつとめ品 

高校と大学でのレッスン。自宅でのレッスン。その他に時々、出身大学や師匠つながりでお呼びがかかる演奏会やセミナー、コンクールの審査・・・。中京圏における「ええ」ヴァイオリン教師の数は存外すけないので、コーチはとても重宝がられとる。

洗練よりは実質を重視する、若干閉鎖的だが個性に溢れた名古屋文化の気風は、クラシック音楽の世界でも顕著に表れる。東京に行かなくとも、ここには「芸大」も「サントリーホール」も「N響」も、自前のものがあるのだ。「県芸」と「芸劇コンサートホール」と「名フィル」が。

魔王や番頭はんのもとにレッスンに通う新幹線代はもったいない。名古屋には立派なコーチがおりゃーすがね。レッスン料は東京・大阪よりも格安。

さらに夏期セミナーや合宿ともなると、レッスンの時間単価は3割引!これはまさに、ヴァイオリン・レッスンにおける「おつとめ品」だぎゃあ。(*名古屋人は、小売店の「おつとめ品」「見切り品」に目がない。)そして希望者は、早朝練習を見てもらえるが、それは、何とただ!

ただほど安いものはない!(当たり前だがね。)

とにかく名古屋が一番。

国際空港も万博もどえりゃあ立派なもんになった。こうなったら、次はオリンピック(忘れとったがね。)! そしてついでに首都も移してきてちょ。大名古屋に!

「コーチのお城」−パブロ・デ・サラサーテ 

コーチは名古屋市内の音楽家たちと弦楽四重奏団を結成している。

ある地方都市での公演が終わった後に、コーチ曰く。

「あー、くたぶれた。くたくたの、ど疲れまくりだぎゃあ。すけない客の前でやるのは、よけいにえりゃあでかんわ。

ミャニャーのどえりゃあ悪い、おおちゃくな客もようけおったがね。

あー、くたぶれた。

風呂、ええころ加減にわいたで。

さあ、

パブロ・デ・サラサーテで行こまい。」


*訳:「あーっ、疲れた。くたくたで、ひどく疲れてしまって参っちゃうなあ。少ない客の前で演奏するのは余計に疲れるからいけない。マナーがひどく悪い困った客もたくさんいたなあ。あー、疲れた。風呂がいい湯加減で沸いたようだ。さあ、風呂・で・さらさらーっと、で行こうよ。」

「コーチのお城」−恐い音 

今日のコーチのお昼は、やっぱり「オリエンタル・マースカレー」。

しかし、カレールーは薄く、おまけにご飯が「こわかった」。

「ああ、ヴァイオリンのせいかなもう。あんたの腕前のせいかなもう。

その音聞いとると、今日のカレーリャースを思い出して、具合悪うなってまったが。

もうちびっと、あんばよう練習やりゃあせよ。

そのしゃびしゃびした、こわい音は何とかせにゃあいかんがね。」


*訳:「ああ、ヴァイオリンのせいかな。あなたの腕前のせいかな。その音を聞いていると、今日のカレーライスを思い出して、具合が悪くなってしまったよ。もう少し、きちんと練習しなさいよ。その薄い、かたい音は何とかしなければいけないよ。」