タイツの瞑想曲−リボンの騎士になった懲り江門 

本当はかわいい女の子。しかし、ひとたび騎士に変装し、馬にまたがれば、勇猛果敢に戦う男になる。

まるでリボンの騎士のように、か弱い女が、気が強く男勝りの勝負服に身を包んで、商談でもしてこようものなら、すぐに飛びついて買ってあげたくなる。

会社訪問などしてきたら、即採用してあげたくなる。

そういったことの繰り返しで、結局自分の周りには、益荒男(ますらお)ぶりっ子な女ばかりが集まって来た。

実は、それを、経営者として屈従させているという事実が、懲り江門の密やかな喜びなのである。

弱いやつが、強がっている。それを叩き潰す。そのとき、しおしおになった姿に、むしゃぶりつきたくなる。


いつの間にか、懲り江門は、自分が騎士になっていることに気づいた。

宝塚歌劇の男優の装いに身を包み、剣と盾を持つ。

そして、先日、土佐の駆けっこで一等賞になった、自分と同じ名前の愛馬にまたがって、颯爽と走り出す。

そうだ。自分は単なる騎士ではない。指導者だ。リーダーだ。カエサルだ。

あのルビコン川をめざすのだ。

しかし、下半身がキツイ。なぜだ。

白いタイツのせいだ。タイツが小さすぎ。

このタイツ、おれの腹部を容赦なく圧迫してくる。我慢ならない。これから戦いという時に、何ということだ。

日頃からダイエットしていないツケが、こんなところでやって来るとは。

ルビコン川に、愛馬は勢いよく駆け込んでいった。

自分の下半身が川の水に浸される。タイツは濡れると、さらにきつく我が腹部を締め付けてきた。

「うぐぐぐぐ」

もう、我慢ならない。なんとかしてくれ。この締め付けを何とかしてくれ。

懲り江門は、もうルビコンを渡るとか、敵と戦うとか、どうでもよくなってきた。

とにかく今は、タイツの締め付けをなくしたい。それだけだ。

タイツを脱ぎたい。

馬上で七転八倒しながら、何とか落馬せずに、やっとこさタイツを脱いだ。

そして、タイツを投げ捨てる。


「タイツは投げられた」


≒「ダイスは投げられた」


=「さいは投げられた」


あーーっ。すっきりした!

はっと、目覚める。

パジャマのズボンをはいていない自分がいた。

パジャマのゴムがきつすぎたのだ。

ホワイトナイトのおれが、このざまとは、ホワット・ナイト!(何て夜だ)

しかし、水の夢だったが、幸いなことに、寝汗以外は異常なし。

ふう。

締め付けられる夢か。

タイツは政府の締め付け=規制のことだな。

規制緩和を!

さすが、政治家をめざす経営者であるオレは、見る夢も違う。

一人悦に入る懲り江門であった。

お新に、ちょっかいとは。YURUSENやつ 

「お新さんとやら。話はだいたいわかった。こっちにとっちゃあ、悪くない提案だ。」

不精ひげだが、どこか上品さの漂うこの主人の、男ぶりの魅力が、お新にはよくわかる。

商売人ゆえの男気と、手弱女(たおやめ)な可愛さは、まれに同居することがある。その希有な例が、この蛭ズイチの色香発散、伊達男、湯船屋であることは間違いなかった。

「とにかく、考えておいて下さい。まあ、今をときめく湯船屋さんのこと、いろいろな筋からの提案が、ひきも切らず来ていることでしょうが。」

お新はすでに気づいていた。

さきほど、湯をあがった湯船屋が、この座敷にくる前に、別の来客を応対していたことを。

たまたま玄関口ですれ違ったその相手の男には、明らかに、忍びの臭いがした。おそらくあの男は、誰かの使いだろう。

「いずれにしても、うちは、湾の星をあの通り、富士山の上の空に描かせているくらいだ。」

たしかに、湯屋の壁絵は富士山と相場が決まっているが、ここの富士山は夜の駿河湾を見渡し、夜空にはいくつもの星が、輝いていた。

「野球は金になる。」

と、この希代の成り上がりは、中空を見るともなく見て、しみじみ言った。

「それから、あんたも、ついでに。」

と、やおら、湯船屋がお新の手を握って、懐に引き寄せた。

次に何が待ち受けているのか、皆目わからない展開。

この男はそういう雰囲気を持ち、行動もそれを裏切らない。

お新の人妻としての抗いは、雌としての雄への誘引に、やすやすと負けてしまいそうになった。

「ちょいと、御主人。あたしには亭主がいるんでね。」

その決定的な言葉さえ、この男には通用しそうもない気がした。

やっとの思いで、身を引きはがしにかかったお新に、湯船屋は諦めきれずに言った。

「悪いことは言わねえ。あんた、おれのところに来れば、湯女としての成功は、保証されたも同然だぜ。」

YUSEN屋登場 

番台の男は、主人のほうに目をやった。

主人は、実は今、男風呂の湯船につかっていた。

客に混じって、湯につかる他の客の話に耳を傾ける。世間話や店への文句など、黙って聞いている。

週に1度の現場主義だが、なかなかできぬことである、と番台の男は感心している。他の客は主人であるとは気づいていない。

番台の男が、三助を呼ぶ。

「おい、ご主人に、お新さんという方がご用がある、と伝えてくれ。」

「へい。」

三助が、湯船で、やさ男ぶりをさらに際だたせた、赤ら顔の主人のもとに向かう。

耳元でささやくと、赤ら顔が何か言ってうなずいた。

「少々お待ちくだせえ。主人が間もなく参ります。」

と番台の男がお新に言った。

水戸黄門と言えば、お新さんの入浴シーン 

(やや小説風に)

お新が向かった先は、「湯船」(ゆせん)という名の、新興の湯屋だ。

湯屋の番台にとって、脱衣所の客の女などというものは、ふだんは皮をむいた芋も同然。何のときめきも、興奮も感じない。

しかし、今入ってきた女には、思わず目が行ってしまった。

はじめて見る顔なのに、慣れたそぶりで、湯銭を番台に投げ込むと、迷いもなく、つつっとしかるべき場所に移り、颯爽と着衣をはずしにかかった。

脱ぐのではなく、はずす、といった風情だ。

ぱっと現れた肌身の白さと輝きの質が、明らかに他と異なる。

人間は何と獣に近いのだろうか、と他の芋をつくづく見て感じてしまう。それほどの人間離れした肌身の質と見えて、艶めく色香の発散の具合のほうも並大抵ではなかった。

浴場に消えたその肌身は、ここでも躊躇なく、仕事のような滑らかな動きで自らを洗い始めた。

思わず見とれてしまった男は、湯気の煙の向こうで、一瞬、女の姿を見失った。

「ちょっと、番台さん」 声がして、我に返った。

「何、ぼーっとしてんのさあ。」

「あっ・・・」

すでに着衣を身につけた女がそこにあった。

「ちょっと聞きたいことがあるのだけれど。」

「・・・」

(一体、どういうことだ。)

まるで最初からそこにいたかのように、女は笑って、こちらを見ている。

「な、なんでやしょう。」

さっきは何も身につけていなかった女が、いきなり、こうして着物を着て、自分をじっと見ている。

男は、赤くなった。

「いつもこの時間は、これくらいのお客さんの入りかしら。」

見透かすように、女は躊躇なく言った。

「8時ですね。さようで。野球をやってる時間帯の客の入りは、こんなところでさあ。」

「すいているのはいいけど。商売としては、もっと客が入ってくれないとねえ。」

「その通りでやんす。」

この時間帯の集客は、湯屋にとって最大の課題である。

「湯屋にいながら、野球を見ることができたら、いいと思わない?」

「へい、さようで。」

「お店のご主人には、湯銭を値上げすることばかり考えないで、工夫してお客さん集めることを考えてほしいわよねえ。」

この女、上玉だから、何かあると思っていたが。うちの主人は、蛭ズイチの色男。ひょっとして主人の女か。

「ちょっとご主人に会わせて欲しいんだけど。」

「へへえ。で、どちらさんで。」

「お新。霞のお新よ。」

ご隠居の考え 

風車が、居間の畳に突き刺さった。

風車には弥七からの報告がついていた。

「代官とミヤウチ屋の陰謀。新聞2社、(電鉄+リース)、(金の鷲+湾の星)、(燕+鯉)、(ガム+ライオン)、ハム、 鷹で、8つ。」

ご隠居「あの者ども、こんなことを考えておったのか。」

格さん「しかし、ご隠居、このとおりには、まいりますまい。」

ご隠居「うむ。ヒルズの奴らは、別のことを考えておるはずじゃ。」

助さん「つまり一枚岩ではない、と。」

格さん「ミヤブチ屋も、一筋縄ではいかない男のようですし。」

ご隠居「うむ。」

ご隠居「それじゃあ、お新さん。今度はあんたの出番じゃ。」

お新「はい、ご隠居。」

瓦版が報じた「懲り衛門」 

町には瓦版売りが・・・

「さあ、さあ、これは驚き、さんしょの木。びっくり、甘栗、資金繰り。

お台場のうっかり8兵衛の生き血を、にほんも飲んだ、ヒルズの帝王。

6区の痛い落選で、いてていてての傷ついた、アヒルちゃん状態かと思いきや、

さにあらずや、サニーレタス。

今度も、8だ。

この男、8に縁があるねえ。

生まれ故郷福岡の、加工食品会社8チャン堂の、冷凍タコ焼きのCMに出演だーーー。」

TBS株取得の深層−弥七は見た(3) 

代官とミヤヴチ屋の密談は続く。

「このところ、いいところなしの懲り衛門には、鯉の生き血でも飲ませておきましょう。」

「さあな。あてにできぬが。四国のちりめん問屋を買うやら、宇宙に行くと言うやら、かまびすしい奴じゃ。ついでに、乳酸菌飲料も混ぜて飲ませてやれ。」

「そして、残るは・・・」

「シゲ蔵のところの粘着力のあるガムで、堕ちたライオンをくっつける。」

「ハムは?」

「それは、柔らかい銀行に相談だな。決してソンなことはすまいが。」

「以上で完成でございます。」

「ヌッヌッヌッ。それにしても、あいつにも誰か入っとらんか。同じ生き血の飲み過ぎで、少々体型が気になるあの男。」

「たしかに、誰かが入っておりますなあ。」

「どこかで、見たことあるぞ、あの顔。」

TBS株取得の深層−弥七は見た(2) 

代官、葉巻きを深々とふかす。

「ミヤヴチ屋よ。そのほうは、まさしくキツネ。」

「このミヤヴチの狡猾さも、お代官様のお教えがあった
ればこそ。」

「虎の威を借るキツネが、関西を1つにまとめてしまい
よる。いやはや、見事な手ぎわ。」

「そして、ハニカミ屋は、湾の星の売却を、あくまで求
めてまいります。」

「金の鷲が、それを飲み込むという筋書きじゃな。
 それにしても、わしは、あのインチキ野郎は、
 好きになれぬぞ。」

「ハニカミ屋は、蛭ズ連中の中では、比較的かわいい男で
ございます。」

「あいつの、まゆ毛から上を見てみろ。」

「・・・と、申しますと。」

「良く見てみろ、まゆ毛から上を。誰かに似ているぞ。」

「・・・・」

「ほら、あいつだ。」

「・・・・」

「ほら、イバラギのあいつだ。俺がもっとも好かん、
 アマ野球の」

「キン之介でございますか。」

「入っているだろ。」

「そう言われてみれば、似ていなくもございません。」