マエストロ 

直木賞作家篠田節子氏の音楽を題材にした一連の小説群のうちのひとつです。

「マエストロ」(巨匠)は、ここではヴァイオリン製作の「巨匠」のことを指しています。

ある会社の広告塔として華やかに活躍する、美貌の、しかし演奏は「一流半」のヴァイオリニスト・神野瑞恵が主人公です。ヴァイオリン製作の伝説の名工、演奏活動上のパトロン、出入りの楽器商、かつてコンクールで競い合ったライバル、音大教授の師匠、健気に努力する晩成型の弟子、プロとして完璧な伴奏ピアニスト・・・。

様々な登場人物が織り成すストーリーは前半は緩やかな音楽小説、後半は著者自身が言うように「死体の転がらない」ライトミステリー風の展開をとります。

心理描写が実に巧み。登場人物、特に主人公を含めた女性のキャラクター彫塑が隅々にわたって秀逸です。「女たちのジハード」で直木賞を受賞した篠田氏の小説に特徴的な女性の「自立」というテーマにこの小説も連なっていると言えるでしょう。後半、主人公はある事件に巻き込まれますが、その中で演奏家としての自らの真の姿を発見するラストは感動的です。

その成長の姿が、ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタの演奏シーンで語られるところが、おけいこヴァイオリンに興味をもつ立場からはとても興味深く読めました。

次のような会話・シーンが特に前半部分には多く、篠田氏のヴァイオリン(楽器や曲、演奏法)に関する造詣の深さには驚きました。

・「このグァルネリは、表板が、非常に薄いんです。しかし華やかによく鳴るでしょう。早い話が、病気がちの美人と同じですよ。」

・「コレルリを弾いて下さいよ。できれば、コンチェルトグロッソでなく、ヴァイオリンソナタのほうをね。先生のコレルリはすばらしいですよ。端正で優美だ。」

・「楽器を探してほしいんだけど」
 「はいっ、今度は、どんな物ですか?」
  柄沢の口調が、変わった。
 「金額は四百万くらい。できればイタリア物・・・・・・」
 「四本で、イタリア?」

・ハ長調の次は、ニ長調の音階を弾く。全音符で四回、二分音符、四分音符、そして三十二分音符までいって、再びホ長調の全音符。

少々、引用が過ぎてしまいました。後は是非本書を読んで、お楽しみ下さい。

観月ありさ主演で秋にテレビドラマ化(WOWOW)されるとのことです。

それにしても本書の表紙。女性の姿を、やや官能的(?)に感じるのは、私だけでしょうか。もちろん、パトロンとの関係や恋愛もストーリーの一部ではありますが、決してそれが中心の小説ではありません。念のために。

マエストロ マエストロ
篠田 節子 (2005/11/25)
角川書店
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